「白いネクタイ」
今年私は 披露宴の司会のために、何度か気仙沼に向けて車を走らせた。
そこは、大谷海岸のすぐそばに建つ会場で、震災で大きな被害を受けながらも、
みごとに再建をはたし、今では毎週のように披露宴を行っている。
震災後、一度は閉館を考えたものの、それまで会場を利用していたお客さんからの
「やめないで!!」 の声に後押しされ、再開を決心したという。
新しくなった会場は本当にきれいで、スタッフの人たちも、再開を心から喜び、
皆ハツラツと働いている。司会をしていてもとても気持ちがいい。
「震災で延期になっていた披露宴が、やっと出来るようになって」 というお客様が多く
新郎新婦はもちろん、親御さんも、親戚の方たちも、笑顔でいっぱいだ。
そうした中で、先日こんなことがあった。
披露宴の中で、お客様一人一人に自己紹介をして頂きながら、
新郎新婦に向けて 「おめでとう」 の言葉を頂いていた時だった。
新婦側の50歳くらいの叔父さんが、こう言った。
その叔父さんは、代々親子で 『カツオの塩辛』 を作ってきた人だという。
「今日は本当に嬉しい!嬉しくて嬉しくて仕方がない!!
震災以降、自分は今日初めて 『白いネクタイ』 を締めた。
この 『白いネクタイ』 と、今日流す 『嬉し涙』 を区切りにして、
またカツオの塩辛が作れるように、顔を上げて進もうと思う!!!
カツオの塩辛が出来たら、新郎新婦に一番に贈るから待ってろな!!」
「そうだ~!! がんばっぺえ~!!」
新郎側の叔父さんが、涙で顔をぐしゃぐしゃにして、そう叫んだ。
民宿をしているという 新婦の伯母さんが言葉を続けた。
「震災後、もう民宿は続けられないと思った。
そこへ、たくさんのボランティアの人たちが来て、がれきの撤去や泥かきをしてくれた。
そして今では、ボランティアの人たちの宿として再開している。
まだまだ、一般のお客様は来ないけど、ボランティアの人たちの役に立っていると思うと
やりがいを感じる。だからこれからも続けていきたいと思う!!
改装が全部済んだら知らせるから、その時は二人で泊まりに来てね!!」
「おお~おれも泊まりにいぐぞ~!!」
また叔父さんが叫んだ。みんな泣きながら笑った。
どの人も、新郎新婦の新しい旅立ちに、心からの祝福を贈りながら
自分たちも、前を向いて頑張るんだと、自らを奮い立たせているようだった。
披露宴は、温かい熱気に包まれてお開きになった。
新郎新婦の幸せと、震災からの復興を願いながら、私は帰途に就いた。
その日も南三陸の海は、穏やかだった。