朗読ボランティア 「杜の音通信」 (H29年9月号)

  
長野淳子 [posted:2017.09.20]

平成26年の9月から、月1回のペースで朗読ボランティアに伺っている 「ギャラリー杜の音」
9月は、以下の5作品を朗読しました。


① 山下 明生:作・梶山 俊夫:絵 「島ひきおに」
② 伊藤 左千夫 :作 「野菊の墓」
③ 川端 誠 :作・絵 野菜忍列伝 其の三 「なすの与太郎」
④ 向田 邦子 :作 「霊長類ヒト科動物図鑑」 より 「傷だらけの茄子」
⑤ 矢野 竜広 :作 「そこに日常があった。」 より 「当たり前のこと」


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① 山下 明生:作・梶山 俊夫:絵 「島ひきおに」   (朗読:堀 多佳子さん)


昔、海の真ん中の島に鬼が住んでいて、ひとりぼっちで寂しがっていました。
ある嵐の晩、沖を通りがかった漁船が、遠くに光る鬼の目を家の明かりと見間違えて、助けを求めて鬼の島へやってきました。
鬼はうれしくなって漁師たちの前に現れましたが、漁師たちは肝をつぶし、命乞いをします。


島ひきおに.jpgのサムネール画像


「人間たちと一緒に暮らすにはどうしたらよいか」 と尋ねる鬼に困惑した漁師たちは、
「自分たちの島は狭いので、鬼が島をひっぱってきたら一緒に暮らせるのだが」 と、口からでまかせを言いいます。
これを真に受けた鬼は、島を引っ張って海を歩き、人間たちの島へと行くのですが・・・。

 

島ひきおに②.jpg


鬼は何の悪いことをしたわけではなく、ただ寂しくて誰かと一緒にいたかっただけでした。
素直で純朴な鬼は、漁師たちに言われたとおりに島を引いて歩き出します。
行く先々の村で、鬼はだまされ、厄介払いを受けますが、それでも鬼は一緒に暮らしてくれる相手を探して島を引くのです。


DSC_1640.JPG


鬼の報われない想いに、せつなく胸が詰まりますが、
人間たちとて家族を守らなければならず、鬼と一緒に住むわけにはいかないのです。
一方的にどちらが悪いということでないところに、このおはなしの悲しさがあると思うのです。


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このお話は、作者山下明生氏の故郷、広島県の能美島の近くにある 「敷島」 という無人島にまつわる言い伝えを元に作られています。
鬼の引っぱってきた島だから 「引島」、それが 「敷島」 になったそうです。

作者自身が子どもの頃、誰にも遊んでもらえず感じた孤独、それがこのおはなしのベースになっていて、
単なる民話ではない深みを感じることができるのでしょう。
読む者の心に問いかけ、考えさせ、成長させてくれる、素晴らしい名作です。( 絵本ナビ事務局長 金柿秀幸氏 )

今回は堀さんが、鬼の切ない気持ちをよく表現してくれました。
杜の音の皆さんも、絵本を見ながらしみじみと聞いて下さいました。


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② 伊藤 左千夫 :作 「野菊の墓」  (朗読:三浦 由子さん)


伊藤左千夫は、30歳の頃から 『万葉集』 に親しみ、正岡子規の門人となり、子規の没後、歌誌 「馬酔木」 を創刊。
編集、作歌、『万葉集』 の研究に全力を尽くす一方、斎藤茂吉など優れた門下生を養成しました。
『野菊の墓』 は、子規の写生文の影響を受けた作品と言われています。


野菊の墓.jpg


政夫と民子は仲の良いいとこ同士で、政夫が十五、民子が十七の頃には、互いの心に清純な恋が芽生えていた。
しかし民子が年上であるために、ふたりの思いは遂げられず、政夫は町の中学へ、民子は強いられ嫁いでいく。


数年後、帰省した政夫は、民子が自分の写真と手紙を胸に死んでいったと知る。
政夫はその後七日間、民子の墓に参り周りに野菊を一面に植えた。
民子の墓の周りには、民子が好きだった野菊の花が茂っていた。


DSC_1643.JPG


今回は三浦さんが、政夫と民子の淡い恋心を、情感豊かに読んでくれました。
杜の音の皆さんも、静かに目を閉じ、じっくりと聞き入って下さいました。


★三浦さんの感想

「野菊の墓」 は、主人公の政夫と民子のやりとりが微笑ましく、心に残る作品です。
長野先生のレッスンでは、二人を引き離す母親のセリフを 「説得力を持つ読み」 にするように...等々のご指導をいただき、
「読み」 の大切さに改めて気づくことができ、今回も大変勉強になりました。


二人のセリフ部分はなんとか読めたような気がしますが、それ以外は我ながら 「硬い読み」 な気がして、
先生の 「読むな!語れ!」 の指導を思い出して、練習しました。


本番では、杜の音の皆さん、ほとんどの方が目をつぶって聴いて下さいました。
反省点も2~3ありますが、お帰りになる際に 「良かった」 と声を掛けて下さった方もいらして、ホッとしました。
主人公と供に、秋の情景を楽しんでいただけたのではないかと思っています。


聴く方がいてこその朗読。
今後も、素敵な世界をお届け出来たらと思っておりますので、杜の音の皆さん、どうぞよろしくお願いいたします。

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③ 川端 誠 :作・絵 野菜忍列伝 其の三 「なすの与太郎」   (朗読:田中 憲子さん)


茄子の与太郎.jpg


山奥の村にすんでいる与太郎じいさんのところに、孫娘の小茄子ちゃんが遊びにきました。
「この村の人たちは、どうしてあんなにやさしいの?」
小茄子ちゃんがたずねると、与太郎じいさんは、若い頃の武勇伝を話しはじめます。


「なすの与太郎」 の6代前の先祖が 「那須与一」 という設定で、タイトルも 「茄子」 と 「那須」 をかけていたり、
終盤に登場する 「千利休」 ならぬ 「千休利」(せんのきゅうり) さんや、見返し後ろのページの 「茄子料理」 の数々など、
なんとも楽しい絵本です。


DSC_1646.JPG 田中さん  茄子.jpg


今回は、愉快なお話が得意の田中さんが、楽しそうに読んでくれました。
杜の音の皆さんも、声を出して笑っていました。


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④ 向田 邦子 :作 「霊長類ヒト科動物図鑑」 より 「傷だらけの茄子」   (朗読:長野 淳子)


優れた人間観察で人々の素顔を捉え、生の輝きを鮮やかに浮び上らせた、向田さんの傑作揃いのエッセイ集。
『傷だらけの茄子』 は、台風の日の 「家庭の情景」 が見事に描かれています。


霊長類ヒト科動物図鑑.jpeg


気負い込んでいっぱいご飯を仕掛け、おにぎりを準備する祖母や母。仕事から帰った父は懐中電灯と電池などを確認する。
いつもと違う大人たちにワクワクする子供。でもワクワクしている様子など見せれば、父親に叱られるので神妙そうに振る舞っている。


大騒ぎしたわりに台風がそれてしまうと、なあんだという気分になる。
大人も拍子抜けしているに違いないのに、少しもそう見せないようにするのが憎らしい・・・。


向田さん①.jpeg


昔、大人たちはみな演じていたのだと思う。
役割を演じる責任感で、大人はちゃんと大人だったのだ。


今のこの自由な世の中が、果たして人々に幸せをもたらしたのかどうかは分からない。
ただ明らかなことは時間は決して戻せないし、人間は自由でラクな方へ流されるということだろう。


時は流れ、人は変わり、言葉も変わっていく。誰もそれらを止めることはできない。
せめて時々、本の世界で流れを遡り、懐かしさと遊びたい・・・。


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向田さんのエッセイは、現代にも 「あるある!」 と思えてしまう日常のエピソードや、鋭い意見があって、
古臭さを全く感じずることなく楽しんで読むことが出来ます。
杜の音の皆さんは、向田さんと同世代の方が多いので、いつも熱心に耳を傾けて下さいます。


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⑤ 矢野 竜広 作 「そこに日常があった。」 より 「当たり前のこと」 (朗読:全員で)


「太陽がのぼること」 で始まるこの詩は、
「当たり前に思えてしまうこと その一つ一つが 本当は奇跡」 という内容で、
ステージ・アップの朗読会でいつも最後に、参加者全員で読んでいる詩です。


そこに日常があった。.jpg


「杜の音」 でも、いつも結びに全員で、音楽にのせて読みます。
「この詩のコピーを部屋の壁に貼っています」 という方もいて
「毎回この詩を朗読するのが楽しみです」 とおっしゃって下さいました。


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見学した諏訪敬子さんの感想

ワクワクしながら皆さんの朗読を拝聴致しました。
受講生の皆さんは随分と練習をなされたのでしょうね。堂々としてお上手だなって思いました。 
そして先生の朗読。何げない日常のひとこまを表現する声、語りに情景が鮮やかに広がり、ググッと引き込まれました。
聞き応えがあり、素晴らしかったです。


向田作品に触れたことはありませんでしたが、手に取って読んでみたいと思わされました。
杜の音の方々も喜んでいらっしゃいましたね。

私も、いつかは人様の前で語れるように勉強していきたいと思います。
宜しくお願い致します。


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毎回、作品選びに始まって、登場人物の配役やBGMなど、「読む人」 も 「聞く人」 もお互いに楽しめるように、工夫していますが
読んでいる間の 皆さんからの 「笑い声」 や、読み終わった後の 「拍手」 「楽しかった」 の声が 「朗読して良かった~」 と思う瞬間です。
そうした声を励みにして、これからも 「朗読ボランティア」 を続けていきたいと思っています。


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